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新茶前線は、北へ、東へ、そして南へ

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777.gif幾度目の「春」だろう。中国茶を趣味の世界から、仕事の一部にシフトして春を迎えるのは15回ほどになったであろうか。以前にも書いたが、中国のお茶の春・新茶は早くから始まる。南北にも広い中国では、お茶が多様な種類があることもあって、複雑な動きをする。

まず、広西壮(チワン)族自治区や雲南省あたりから新茶づくりが始まる。早ければ2月中旬ころである。そして四川省へと続く。

もっと南に位置すると感じる広東省の新茶の話題は、それよりあと5月まで待つことになる。それは、広東省のお茶の中心が「青茶」(烏龍茶)が中心で、緑茶の多くが新芽を中心に摘むのに比べ、烏龍茶の多くは芽から葉が開き、少し成長してから摘むので、その時間を待つために遅くなる。

四川省の代表的なお茶の中で、市場に早くに登場するのが「峨眉山」のお茶だ。峨眉山は、観光地、仏教の名刹として有名である。作られるお茶の一つ「蛾眉竹葉青」は、名前のとおり竹の葉を想像させるような鋭く尖ったような形状で、緑が鮮やかなお茶だ。新茶は、飲んで切れ味がよく、香りは植物の蒼さを感じさせる。

その蛾眉山のお茶からすぐ後を追って、そこから少し北・雅安の「蒙山」のお茶が登場する。今から約1300年以上前、すでに唐代の皇帝献上茶として有名だった茶区である。今では、「蒙頂甘露」「蒙頂黄芽」などの銘茶が作られている。ずっと東の浙江省などのお茶よりも早く生産が出来るので、希少性で高く売れるために、他の茶区のOEM生産も行われている。蒙山産の龍井茶(浙江省杭州で生産される中国茶を代表する緑茶)というのも、存在する。

そして、今度は東へと新茶の登場は移動する。お茶どころ浙江省を中心に「江南」と昔から呼ばれる地帯のお茶の登場だ。お茶によっては、茶名と一緒に「明前」の文字もよく見かけるようになる。清明節(4月5日)前に摘み、製茶するお茶は「明前」と呼ばれる。その後採れるお茶は、「雨前」(清明の次の二十四節気が「穀雨」で、清明から穀雨の間で作られるお茶)のお茶と呼ばれる。

そして、内陸に入った安徽省などや、栽培の北限の山東省のお茶が登場する。こうして、緑茶の新茶はほぼ4月いっぱいで出揃うことになる。

緑茶の新茶が出揃うと、次は烏龍茶(青茶)の登場である。今度は少し南下し、福建省の烏龍茶が出始める。その福建省の南・広東省の烏龍茶は、福建省のお茶とほぼ同じころ、4月下旬から5月頃に新茶が登場する。

888.gifそして、日本のゴールデンウィークあたりに、台湾の烏龍茶も春茶(台湾もよいお茶は年二回摘みなので、あとの一回は冬茶で呼ぶ。)の登場が最盛期となる。

このようにして、中国茶の春・新茶の登場は、5月下旬にはひととおり終了する。

私の手元に今年最初に届いた新茶、「雲南毛峰」をいれて飲む。緑茶でありながら、春の息づかいを感じさせる蒼さといっしょに、柑橘系のような香りがする。そして上品で甘い残り香がある。銘茶とは認められないので、関連の本でもその名が登場することはない。10年ほど前から、無名ゆえに特別の感情をこめて人にも勧めるが、なぜか広がることがなかった。市場では、扱いがより小さくなってきている。

春の蒼さを胸から口へといっぱいに広がった。身体には春が来た。

朝日新聞 から




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