ホーム ヂィレクトリ センター タイ北部様式の珍しい仏教寺院

タイ北部様式の珍しい仏教寺院

81
0

タイの仏教寺院はスリランカ様式の流れを汲んでいますが、長い歴史の中で、タイのそれぞれの地域特性を加味しながら、次第にタイ特有の様式を生み出して行きます。

昨日はタイ北部のシャン族の寺院を御紹介しましたが、本日は、観光地としても有名な金綺羅金の王室仏教寺院ではなく、タイ北部様式の特徴が強く残るタイ式仏教寺院について触れて見たいと思います。

タイ様式の仏教寺院には、布薩堂(本堂)、礼拝堂、鐘楼、仏塔、尖塔、書庫、僧侶の住居などの様々な形態がありますが、今日は、その中から、最も格式が高く、僧侶が儀式や宗務を執り行う 『 布薩堂 』(ウボソッツ อุโบสถ )、そして、庶民の誰もが自由に祈りを捧げることのできる 『 礼拝堂 』(ウイハーン วิหาร )を採り上げます。

先ずは、タイ北部のパヤオ県から古代都市公園(ムワン・ボラーン)に移築・修復されたワット・チェンコンの礼拝堂(ウイハーン 下写真)を御覧下さい。

00123-2.gif

タイ北部の仏教建築様式を取り入れたワット・チェンコンの礼拝堂

タイ式仏教寺院に於ける 『 礼拝堂 』 は、一般の民衆が自由に出入りできるコミュニティの場所ともいえる場所です。分かり易く言えば、釈迦像が安置された地方の集会所のような存在だと言えるかも知れません。集まる信者が多ければ多いほど、建物の規模も大きくなり、本堂の 『 布薩堂 』 をも凌ぐ規模の礼拝堂も少なくありません。

庶民のために造られた 『 礼拝堂 』 には、幼児を含めた老若男女が、毎日でも行きたくなるような様々な工夫が施されています。例えば、仏陀の教え(ジャータカ物語)、仏教の宇宙論(トライプム)、そして、タイ人の生活のバイブルとされる 『 ラーマ・キアン 』 などの極彩色の絵画が描かれ、誰もが共通の話題で楽しめるようになっています。勿論、礼拝堂の中央には大きな釈迦像が安置されています。

551.gif

776.gif

タイ北部のタイ式仏教寺院の特徴は、地上スレスレまで延びた急角度の屋根の形状にあります。壁に相当する部分はなく、長く延びた屋根の先端が壁を兼ねる構造になっています。金綺羅金の装飾は全く無く、優美で流れるような屋根を有するタイ北部の木造の仏教建築様式に強く惹かれる僕ですが、皆さんは如何ですか?

最近は、このような建築様式が次第に少なくなりつつありますが、それでもタイ北部からラオスの古都・ルアン・プラバンの地帯にかけて歩くと、今でもこのような建築様式の寺院に出会うことがあり、思わず嬉しくなることがあります。

次に、同じくタイ北部から古代都市公園に移築された 『 水上布薩堂 』 を御紹介しましょう(下写真)。『 布薩堂 』 は、寺院の中で最も重要な格式を有する本堂です。『 布薩堂 』 には、僧侶が礼拝するための本尊仏が安置され、僧侶が227の戒律を唱えるパーティ・モーク ปาติโมกบ์ )の儀式、僧侶になるための得度式、そして、タイの出家者集団のサンガの宗務を執り行う場所であり、寺院内で最も神聖な区域とされています。

73.gif

読者の方の中には、粗末な布薩堂の佇まいを見て、『 エッツ!これが布薩堂! ウソッ! 』 と思われる方がいらっしゃるかも知れませんが、正真正銘!これは古き時代の本物の『 布薩堂 』 なのです。

『 礼拝堂 』 と 『 布薩堂 』 の区別は、建物の外観や大きさではなく、『 結界石 』(セーマー เสมา )の有無で決まります。しかし、この珍しい様式の 『 水上布薩堂 』 の何処を探しても 『 結界石 』 らしき物は無く、池の中にぽつねんと建てられているだけです。

史料を見ると、西暦12世紀頃(鎌倉時代)、セイロンでの修法を終えてタイ北部に戻った来たタイ人僧侶は、セイロン留学時に習い覚えた池(海)を結界とする考え方を踏襲して、タイに於いても『 水上布薩堂 』 を建てるようになったとあります。しかし、その後は、『 池を結界 』 とすることから、陸上に結界石を配置する考え方へと変化して行きます。

僕が子供の頃に住んでいた日本の田舎の古寺の山門には、『 不許葷酒尼女山門 』 、『 女人牛馬結界 』などのような差別的な結界石が残っていたように記憶しています。 日本の 『 結界石 』 は、仏教寺院の境内と俗界を区切る役割を持っていたようですね。

タイでは、修法を行う神聖な 『 布薩堂 』 の周囲に限って、魔障が侵入して来ないようにするために、四基~十二基の 『 結界石 』(下写真)を必ず設ける風習が踏襲されています。

97-5.gif

最近のタイ仏教寺院の 『 礼拝堂 』 と 『 布薩堂 』 は同じ建築様式が多く、外観的には区分が難しいのですが、『 結界石 』 が設置されているのが『 布薩堂 』。結界石が無く、誰でも自由に出入りできるのが 『 礼拝堂 』 ということになります。

すべでの文章と写真はameblo.jp/hiro-1/entry-10093620097.htmlから

前の記事菩提の寺
次の記事暁の寺