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今月の法話

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「子孫のために美田を残さず」

 先人の有名な言葉です。

 子孫のために法外な財産を残せば、子孫の多くは努力することを怠り、人生の本懐を見失いやすいという歴史的事実を教訓にした戒めだと思います。

 裸で生まれてきた私たちは生涯をかけて様々なものを手に入れようとします。土地 家 お金 地位 名誉 そして伴侶 子供など等。しかしそれらの全ては時間の経過とともに風化していきます。

 お釈迦様は人間が手に入れようとするそうしたもの全てをさして、「一切世間、動不動の法は全てこれ敗壊不安の相なり」と喝破されています。

 つまり人間の思惑や約束事によって、決められた価値観や物事は全て敗れ壊れていく定めにあるというのです。

 それでは本当に残る遺産とは何でしょうか。それはその人の生き方そのものではないでしょうか。

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 私たちは故人を評価するとき、あの人は駅前にビルを遺した人だ、などという外見的なことは言わないものです。あの人はいい人だった。優しい人だった。ひどい人だった。厳しい人だった、などと人格を評価します。つまりその人の心のありよう、生きてきた姿に感心を示します。

 お釈迦様のご生涯を偲んでみたいと思います。二千五百年前、形あるものとしてこの世に残されたものは、一人の息子と托鉢・食事のときに使う食器と身にまとっていたお袈裟だけでした。

 八十年のご生涯をまさに布教の旅として過ごされ、出会う人々に様々なみ教えを説かれてきました。それは後に膨大な経典として伝えられることになりましたが、其の中心となった思想は慈悲の心でした。

 人々の心の苦しみを取り除き、楽を与えていくというこのみ教えは、多くの出家者を誕生させ、教団を形作り、更にお釈迦様と出会った在家の人々はそのみ教えに帰依していきました。

 お釈迦様とそのみ教えとそれ伝える僧侶の三つの宝が形成され、やがて仏教は世界宗教として発展していくことになります。

 お釈迦様のあまりにも偉大な人格と人を魅了してやまない人知を超えた優しさが仏教を
誕生させたといえます。

 ちなみに世界の四大聖人といわれるお釈迦様、孔子、キリスト、ソクラテスはいずれも富とは無縁の生涯を送られています。

 六十歳を過ぎて私たちは子孫に何を遺産とし、何を遺さざるべきかを真剣に考えるべきではないでしょうか。    

安洞院 住職 より

antouin.com/dl.html から

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