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僧侶と哲学者―チベット仏教をめぐる対話

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001-27.gifフランスの哲学者ルヴェルは、哲学者とは本来、ソクラテスのように知恵の体現者であり実践者であったはずなのに、現代の哲学も科学も生きる知恵には無関心であることを率直に認める。そして、仏教が西欧で強い関心の的になる背景には、この空白を埋めたいという願望があると考える。

彼は、前途洋洋の分子生物学者の道を捨ててチベットの高僧の下で修行した息子リカールと、真摯な議論を交わす。彼によれば、西洋思想の基軸は、意識ある主体としての人間の自立性の確立と、人間による世界への働きかけであり、17世紀以降、みなが歴史の進歩を信じてきた。完全に行き詰まった世界の現状を前にして、仏教はわれわれに何を与えることができるのか。人間にとって一番大事な問い、いかに生きるべきかについて、

僧侶は、仏陀の教えに従い、内面の完成に向かおうとする仏教の真のあり方を哲学者に説く。哲学者は、ギリシャ哲学からライプニッツに至る西洋哲学の歴史、認識論、精神分析などと突き合わせる形で、仏教の精神の科学、観想的科学について僧侶のことばを理解しようと努める。自我は実体のない幻想であり、あるのはたえざる意識の流れのみとする仏教の考え方をめぐって、対話は白熱する。チベットの仏教文化が今、中国の暴力を伴う強制的近代化に脅かされているのに、なぜダライ・ラマがあくまでも非暴力に徹し、対話を求め続けるのかが、本書によってよくわかる。仏教の本質に発しているのだ。

ルヴェル,ジャン=フランソワ[ルヴェル,ジャンフランソワ][Revel,Jean‐Francois]1924‐2006年。哲学者・政治評論家。アカデミー・フランセーズ会員。現代フランスを代表する知識人のひとり。全体主義と民主主義をめぐる彼の考察は、欧米で高い評価を受けている

リカール,マチウ[リカール,マチウ][Ricard,Matthieu]
1946‐。チベット仏教の僧侶。ノーベル賞受賞者フランソワ・ジャコブ教授の指導のもとで分子生物学の国家博士号を取ったあと、チベット語を学び、仏教修行の道に入る。チベット仏教にかんする文献の翻訳者であり、またダライ・ラマの通訳を務める

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