奈良市の興福寺南大門跡で出土した創建時(8世紀前半)の鎮壇具(ちんだんぐ)を納めた須恵器のつぼから、カサゴの仲間の魚の骨の一部が見つかり、奈良文化財研究所と興福寺が15日発表した。鎮壇具は土地の神を鎮めるために建物の地下に埋められるが、金銀や水晶などの宝物がほとんどで、魚が確認されたのは初めて。魔よけなど呪術(じゅじゅつ)的な意味が込められているとみられ、同研究所は「仏教とは無関係で、天文や占いなどをつかさどる陰陽師(おんみょうじ)が地鎮の儀式を仕切っていたのではないか」としている。
つぼは昨年の発掘調査で見つかり、その中から、和同開珎やガラス製の小玉とともに、最大約2センチの魚の骨やうろこが数百片出土した。体長16~18センチ程度のフサカサゴ科の魚の頭の骨や胸びれとみられ、頭部だけが納められたとみられる。
古代寺院ではこれまで約20か所で、鎮壇具が出土している。正倉院文書には奈良時代の法華寺阿弥陀(あみだ)浄土院(奈良市)や石山寺(大津市)の地鎮に陰陽師がかかわったと記されているが、魚類が用いられた記録はない。
仏教ではあり得ず
魚の骨の謎に、専門家から様々な意見が出た。
「殺生を禁じる仏教で魚を供えることはあり得ず、頭部だけというのも不思議だ」と薮中五百樹(いおき)・興福寺境内管理室長(歴史考古学)は首をかしげる。
「山の神にオコゼを供える」という鎌倉時代の陰陽道の文献がある。椙山林継(すぎやましげつぐ)・国学院大名誉教授(祭祀(さいし)考古学)は「山の神は醜く、醜いオコゼを供えると喜ぶという伝承がある。オコゼに似たカサゴを、寺の東にある御蓋(みかさ)山の神にささげたのでは」と指摘する。
同研究所によると、今回、骨が残ったのは、一緒に入っていた和同開珎の銅成分が骨の分解を抑制したためで、奇跡的だという。
読売新聞 より」