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歌う尼さん「人の癒やしに」

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85.gif奈良県高取町の僧侶で、シンガー・ソングライターのやなせななさん(34)が、自伝エッセー「歌う。尼さん」(四六判、176ページ)を出版した。同町兵庫の教恩寺(浄土真宗本願寺派)で生まれ育ち、幼い頃から歌が大好きなやなせさんが、袈裟(けさ)をまとい、念珠を手に全国の寺でコンサートを開く「歌う尼さん」になるまでの半生を振り返った。(成川彩)

 ◆袈裟まとい全国で熱唱

 読み書きよりも先にお経を覚えたやなせさんにとって、僧侶になることはごく自然なことだった。龍谷大学の真宗学科に進み、得度。寺や檀家(だんか)を回ってお経を上げる一方、歌手という夢を追い続け、2004年にはシンガー・ソングライターとしてデビューを果たした。

 ところが06年、体調不良を感じて訪れた病院で、子宮体がんを告知された。子宮と卵巣をすべて摘出しなければ命が助からない。自分が自分でなくなるような気がして、えたいの知れない恐怖に襲われた。

 手術は成功したが、後遺症に苦しんだ。薬の副作用で、手がパーのまま動かなかったり、ひざが曲がらず正座できなくなったりした。ホルモンバランスが崩れ情緒不安定な闘病生活のさなか、所属していた音楽事務所が閉鎖同然に追い込まれ、一人取り残されたが、これが大きな転機となった。「ほんとにつらかった。でも、お陰でつらい人の話に心が動くようになった。それまではどこかひとごとで淡々としか聞けなかった」

 大学の友人らの紹介で、少しずつ寺でコンサートを開く機会が増えてきた。歌の合間に自身の話や曲を作った背景を語ると、涙を流して自分のつらかった経験を話し出す人がいる。「何だかライブハウスよりもお寺の方がしっくりくる」。いつしかそう感じるようになった。

 後遺症からやっと立ち直った昨年、「やなせななが、あなたのお寺で歌います」と題した冊子を作り、歌う尼さんとしての活動を本格的に始めた。多い時には月に10カ所以上の寺で歌うこともある。

 ♪かなしみは お鍋の中

 ぐつぐつ煮込めば とけて ゆく ひとつになる

 腹ぺこの君が 笑った

 人と人とが喜びや悲しみを分かち合う姿を描いた「シチュー」という曲だ。痛みを経験したからこそ、他者の痛みにも気づける。人はいたわり合って生きられるというメッセージを込めた。

 長く寺を支えてきた祖母は高齢で、両親は現役の医師。9月には曽祖父以来となる住職を継ぐ予定だが、「お寺に来る人を待つだけでなく、疲れた人たちの癒やしになれるよう、いろんな所に出向いて歌いたい」という。

 1365円(税込み)。問い合わせは遊タイム出版(06・6782・7700)へ。コンサートなどの問い合わせはやなせさんのホームページ(http://www.yanasenana.net/)へ。

朝日新聞 から

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