うっそうとした森に囲まれた石段が322段続く神亀山(しんきざん)。国道3号に近い薩摩川内市のほぼ中心部、川内川を臨む小高い丘をゆっくり上ると、ご神木である楠の巨木の上に社殿が見えてきた。
昔の国々で最も格式が高く守り神とされる「一の宮」のひとつ、薩摩国一の宮・新田神社。今も地域の人々が厚い信仰を寄せる。
社殿に入ると、礼装の種子田宮司の姿があった。三十数代前から鹿児島で神職を務めてきた家系という。
「昔より希薄になったかもしれませんが、川内の総鎮守として、ここは人々の人生の節目に深くかかわっています」
立命館大で社会福祉を学んだが卒業後、国学院大神道学専攻科に進み神職の道へ。太宰府天満宮(福岡)、神社本庁(東京)を経て86年、新田神社宮司に就任した。
神社本庁時代は渉外として法律問題も担当。ちょうど中曽根康弘元首相の靖国神社参拝を巡り、政教分離が論議の的だったが「神道というと政治的なものを連想されがちですが、実は地域の人々の生活や習慣に根ざした、もっと分かりやすい信仰だと思います」と静かに語る。
由緒ある社だけに四季折々の祭礼には事欠かない。正月の武射祭に始まり、春の早馬祭、夏の御神鏡(かがみ)清祭(すましさい)、秋には川内大綱引だん木祭……。いずれも地元になじみ深い行事ばかりだ。
「これらは神事だが地域の風習でもある。神社は氏子という地元の人々全体に支えられ、伝統行事を一緒に伝承していくことが大切なんです」。社会人や学生などの若者、系列幼稚園の子供たちを祭りに参加させるのもそのためという。
癒やしを求めているといわれる現代人。霊的なものに心引かれる人も少なくないようだ。「かつて神社は布教活動をしなかったが、宗教家として活動すべきではないか」が種子田さんの持論。社会団体や郷土史研究会などで度々講演し、13年前には米・ハーバード大であった「神道と環境」がテーマのシンポジウムにも足を伸ばした。「神道は自然の中に神が存在するという考え。鹿児島でも森殿(もいどん)と呼んで森そのものを信仰する地域がある。地球環境保護が課題になっている今、ますます神道は意義深いと感じた」
新田神社と同じく、各地の「一の宮」100カ所をお遍路さんのように巡る「諸国一の宮巡拝」が静かなブームだとか。人は誰もが、心のよりどころを探している。
馬場茂 より 毎日jp から