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禅のこころ 

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livre.gif■自分を見つめなおす

座っているだけなのに体がぶれ心が乱れる。身も心も思うようにならない。すべてはその自覚から始まるという。

禅が静かなブームだ。書店には関連書籍が並び、休日の禅寺で開かれる座禅会には大勢の人たちが集まっている。

なぜいま禅なのか。自由な社会に生きているのに、わざわざ不自由な形で脚を組む。効率と結果が重視される世相にあって、功利を捨てよと諭される。メールやツイッターの隆盛とも正反対。禅は言葉を否定し、能弁を嫌う。

そんな禅の世界の入門書である本書は88年に刊行された。今回が3回目の出版になるが、度重なる復刊はブームの影響だけではないだろう。

著者は仏教学者で現在、東洋大学の学長。自身も若い頃から禅に親しんだ。「禅は哲学であり詩である」という。

「不立文字(ふりゅうもんじ)」(文字では教えられない)の世界に生きる禅僧たちがなぜ、好んで詩や歌を詠んできたのか。道元、西行、明恵、そして良寛らが残した詩歌を引いて「禅のこころ」を解き明かしていく本書は、仏教に疎い「門前の小僧」も飽きさせない。四季のある「無常」の国だからこそ、かくも詩歌も禅も豊かになったのか。(大嶋辰男)

■もっとはまりたい人へ 書店員のおすすめ

紀伊国屋書店新宿本店(地形図、山岳書担当) 小木曽正泰さん

〈1〉仏教百話 [著]増谷文雄

〈2〉時間と自己 [著]木村敏

〈3〉ミラーニューロンの発見 [著]マルコ・イアコボーニ

有隣堂たまプラーザテラス店(フロアマネージャー) 高樋純子さん

〈4〉タオ—老子 [著]加島祥造

〈5〉「聴く」ことの力 [著]鷲田清一

禅が問うたのは「己事究明(こじきゅうめい)」、本当の自分を探し求めよということだ。禅宗は5世紀末、インドからだるまが中国に渡り生まれた仏教。そこで禅の根幹を掘り下げたくなった人にオススメなのが〈1〉。ブッダの伝道と生涯を一問一答形式のエピソードで連ねた「たいへん射程の長い本」と小木曽さん。

視界をヨコ軸に広げてみると老荘思想が見えてくる。中国生まれの禅宗は老荘思想の影響も受けている。ベストセラーの〈4〉は「老子道徳経」の現代語訳、「タオ」とは「道」のことだ。その世界観に「大いなるものを感じ、小さなことに拘泥しがちな日常から解き放たれる」と高樋さん。

大いなるものを考えるとき、「時間」というテーマも浮かんでくる。禅宗では「前後裁断(ぜんごさいだん)」といって、過去も未来もなく、自己はいまにしか存在しない、と説いている。

そこで読んでみたくなるのが〈2〉。「自己と時間」は哲学でも大きなテーマのひとつだが、西洋哲学に通じる精神病理学者の著者は精神疾患の患者と向き合い、自己のとらえ方と時間のとらえ方との関連性について、分析をこころみる。〈5〉は「臨床哲学試論」として書かれ桑原武夫学芸賞を受賞した力作だ。

最後に、宗教や哲学とはまったく違う視点から〈3〉をあげておこう。脳科学最大の発見と言われる神経細胞「ミラーニューロン」は別名「物まね細胞」。他者の行動を見て同じように行動しているかのように反応する細胞で、他者への共感など感情面に大きな役割を持っている、と見られている。「生物としての自己を考えさせられる興味深い一冊」と小木曽さんはいう。

朝日新聞から




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