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ネパール仏教文化の重要性

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 【ネパール仏教】

 ネパール仏教は、釈尊降誕の国ネパールの首都カトマンズ盆地を中心に住むネワー民族が信仰する仏教で、サンスクリット大乗経典を所依の経典とする教派である。またチベット仏教とともに後期密教に属する。さて中国仏教とチベット仏教が自身の言語の大蔵経を持つ大乗仏教教派であるが、ネパール仏教はそれらの大蔵経のもとであるサンスクリット大乗経典を所依とする。そのためサンスクリット仏教とも呼べる。

 また今は失われてしまったインド仏教の一つの伝統を伝える古色な雰囲気を持つ仏教でもある。ネパール仏教が信仰されている地域は小さく、人口も大きくはないが、その文化の内容は豊かで優れている、まさに特殊に注目されるべき大乗仏教である。

 【サンスクリット仏典】

 サンスクリット(梵語)はインドの文化言語と言われ、インドの宗教、文学に古代から使われてきた。大乗仏教はこの言語で経典を著わし、声聞仏教のパーリ仏典と明確な区別をなした。アジア全域に大乗仏教がひろがった後も、サンスクリットの重要性は認識せられて、この言語でなければ宗教性が失われるという理由で、日本に至るまで真言や陀羅尼はサンスクリットのまま読誦されている。この言語は西欧におけるラテン語に相当する。

  インドにおいて、仏教は十三世紀にはほとんど姿を消してしまい、サンスクリットの仏典はことごとく失われてしまった。中央アジアやチベットなどで発掘発見されて今日目にすることの出来るものもあるが、多くのサンスクリット仏典は、ネパール仏教によって、今日まで伝えられたものである。 

  今日、日本を初め世界の大学や研究機関で大乗仏教経典が研究をされる場合、そのほとんどはネパール仏教の僧侶等が写経によって伝えてきたサンスクリット仏典写本に負う。ネパール仏教におけるサンスクリット仏典の価値の大きさを示す事例である。

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 【仏教文化、文化財】

  ネパール仏教は、その伝統文化の豊かさにおいても注目される。儀礼は独特の儀規次第があり、その内容は般若経や無量壽経の描くインド古代の儀礼世界を彷彿させる。儀礼や祭はその宗教性と同時に無形文化財としての価値が大きい。特に祭礼は古いアジアの民俗の伝統や宗教を共有している事も注目される。

  ネパール仏教は、ヒンズー教と混在し、信仰において互いに混交し、補完しあい、共に生きている。従って生活もその文化も宗教も相似関係を見せる。そのようなネワー文化のありかたにも注目する必要がある。町には寺院、お堂、祠、仏神像、塔などがあふれ、両者の信仰の対象となっている。

 またそうした堂塔が多い町そのものが博物館を呈する。生活と宗教と文化全体を見る時、それらがネワーの都市の構造と深い関係がある事をも見出さざるを得ない。中世に完成した都市は近世多少破壊されはしたが、今日のネパールの都市空間は、伝統文化と共に保全される事が危急である。

 
 【ネパール仏教のおかれている状況】

 かって経典や仏像がネパールの町の土産物店や骨董屋で外国人ツーリスト相手に売られている現状を見て、『この小さな地域と小さな人口のネワー民族のネパール仏教にとっては、大変な状況に置かれている』と感じさせられた。そういう状況に対してなんらかのアクションを起こしたいと考えたのが仏教資料文庫の始まりである。

ネパールの経済状況は先進国と比べれば遥かに遅れている。一方ネパールはすでに経済構造や社会組織は世界化の中に組み込まれてしまった。あるいは情報社会となって新しい価値観が入って来た。そのような状況の中でネワー社会も伝統的な社会体系を弱体化させた。そして仏教やヒンズー教もその文化の護持の土台を失ってきた。祭や儀式などは社会的因習という拘束力があるためにある程度形が存続されているが、その中に発現されるべき信仰心というような宗教性は極端に失われている。あるいは文化、文化財、就中サンスクリットというような信仰を伴う学問、文化の土台である手工芸は極めて保存や継承することにおいて難題を抱えている。あるいは新しい都市の無秩序な開発や建造物の建設は文化や文化財の器を失いつつある。

aioiyama.net/bl/npimp.html から

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