奈良時代の平城京(710~784)で、政治の中枢だった平城宮(奈良市)の役人が牛や豚の肉を食べていたことが、便槽の遺構に残る便の分析から確認された。奈良文化財研究所が17日、発表した。牛や豚の肉を食べると感染する寄生虫の卵の遺物が見つかった。当時の肉食が科学的に裏付けられたのは初めて。
殺生を禁じる仏教を尊んで肉食禁止令が出ていたにもかかわらず、食べていたらしい。当時の日本人は殺生、肉食を忌避していたと考えられていた。
宮内警備にあたった「衛府(えふ)」などがあった官庁街の推定地で、人の便を埋めて処理したとみられる七つの穴(直径約50~70センチ、深さ約20~80センチ)が出土し、排便後にお尻をぬぐうために使った細長く割った板「籌木(ちゅうぎ)」や便の固まりが見つかった。便を顕微鏡で分析したところ、牛肉や豚肉に特有の寄生虫の卵を確認した。
古来、日本人はイノシシやシカなどの肉を食べてきたが、日本書紀などによると、仏教の普及に伴って「牛・馬・犬・猿・鶏を食することを禁じる」(675年)、「飼っている鶏やイノシシを放せ」(721年)など、朝廷から肉食禁止令が出されていた。仏教に深く帰依した聖武天皇(701~756)も肉食を禁じる詔を発した。
寄生虫の卵は、福岡市の鴻臚館(こうろかん)跡(8世紀)や秋田市の秋田城跡(同)の便所の遺構でも確認されている。しかし、いずれも海外使節の宿泊所跡のため、外国人が肉食した痕跡とみられていた。奈文研の今井晃樹(こうき)主任研究員(考古学)は「外国人がいた可能性の低い平城宮跡でも見つかったことで、日本人官僚が肉を食べていたと考えられそうだ」と話す。
編集委員・小滝ちひろ より
朝日新聞 から