鎮座する巨石に安らぎ
平城京が栄えた1300年前に東大寺の高僧らが修行を積んだと伝えられる笠置町の笠置寺。町は府内の自治体で人口が最も少なく、観光消費額(府調べ)も最近10年間で6割も減った。再生に向けたきっかけを探ろうと、旅館と寺、商工会がタッグを組み、写経や座禅などの「修行」を体験するツアーを15、16日に初めて実施した。「現代の修行の場として認識してもらう突破口となれば」。そんな思惑を込めた試みに同行した。【山田尚弘】
木津川沿いに位置する町の人口は1744人(今月1日現在)、町唯一の小学校の今春の新入生は4人。町で最近、大きな話題になったのは廃業したホテルが「心霊スポット」としてテレビ番組で取り上げられ、以降訪れる若者が絶えないことだ。ツアーはこんな現状に歯がゆい気持ちを抱いていた旅館「よしや」の主人、中西隆夫さん(57)の着想がきっかけだった。
笠置寺は、標高288メートルの笠置山全体が境内。8世紀に東大寺の良弁和尚が山頂付近にこもって大仏建立の秘法を修めたという。後醍醐天皇が挙兵した「元弘の変」で焼かれ、江戸時代には無住の寺になった。小林慶昭副住職(47)は「修行の場だった寺の由来を知る町民は少ない」と言う。
「自分探しの修行体験プログラム」と銘打ったツアーには京都、大阪から20~60歳代の5人が参加した。
白衣(びゃくえ)に着替え、お経を唱える発心式が始まったが、緊張からか、みんな声を出せない。その後の仏教講話で小林副住職が「楽しく修行をしましょう。思いやりのある言葉を話したり、にこやかに暮らすだけで修行になるのです」と場を和ませた。大阪府枚方市の岡野道子さん(60)は「仏教は難しいものだと思っていたが、親しみがわいた」と話した。
2日日はウグイスが鳴く境内を清掃する作務(さむ)から始まる。朝食後は境内の岩場を巡る一周約800メートルの行場めぐり。高さ15・7メートル、幅12・7メートルの弥勒岩に彫られたご本尊は過去3回のいくさで消えたが、小林副住職の案内で普段は立ち入れない弥勒岩の上に登ると、空が近く感じ、一瞬足がすくむ。しかし、眼下に広がる山肌と、どっしりと鎮座する巨石を眺めると、不思議と落ち着き、自分の中に力が蓄えられるような錯覚を覚えた。
将来に漠然とした不安を抱えながら、救いを求めていた私の心も解き放たれたようで、少しだが修行者の気持ちに触れたようだ。最後は5分間の座禅を2回組んで、全日程を終えた。
ツアーを監修した大沢健・和歌山大准教授(地域経済学)は「町おこしというだけでなく、寺が持つ本来の機能を取り戻す試みだったように思う。今後の課題は住民主導で工夫しながら継続していくこと」と注文する。ツアーは6、7月にも開催予定という。
問い合わせは、よしや(電話0743・95・2141)まで。
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