「厳」
このように頭から水かけることを「灌頂」と言いますが、この「灌」は「水をそそぐ」意味の漢字です。日常使う言葉では、田畑に水を引いてうるおす用水のことを灌漑(かんがい)用水と言います。
さて古代中国では頭にではなく大地に、水ではなく酒をそそぐ「灌地の礼」という儀式がありました。酒をそそいで大地を清め、神様を招くのです。わたしたちが日ごろ使う漢字にも、この「灌地の礼」の名残である文字がありますので紹介(しょうかい)しましょう。
まずは「敢(かん)」です。「敢」の古代文字を見てください。これは神様を招く場所にお酒を灌いでいる人の姿をそのまま字にしたものです。神を招く場所をお酒で清める儀式は、つつしんで行うので「敢」には「つつしむ」の意味がありますし、そのつつしんで行う行為を神を迎えるために、あえて行うので「あえて」の意味ともなりました。
厳」も「灌地」に関係の字です。この「厳」の旧字「嚴」は「敢」と「厂(かん)」と二つの「口」です。「厂」は切り立った部分を表す文字。例えば「顔」の字にも「厂」はありますが、これは「ひたい」のことです。「嚴」の場合は「崖(がけ)」のことを表しています。
そして「口」は耳口の「くち」ではなく、神様への祈(いの)りの祝詞(のりと)を入れる器「口」(サイ)のことです。つまり「嚴」という字は神様がいると思われていた崖の上の岩場で、お酒を灌ぎ、さらに神への祈りの祝詞を入れた「口」を並べて、おごそかに儀式を行っている字で、そこから「おごそか」の意味となりました。
さらにこのような儀式を行う岩場を「巌(がん)」(旧字「巖」)と言い、「いわ、いわお」の意味となったのです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)
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