京都・高山寺に所蔵される「華厳海会諸聖衆曼荼羅」は、『華厳経』における毘盧遮那如 来の説法を象徴的に描いたものとされる。本図には明恵上人(1173-1232)の華厳思想が大 きく反映していると考えられており、制作年代についても、明恵在世時まで遡る可能性が指 摘されている。先行研究により、中央三尊は宋画を典拠としていること、また、周囲に描か れた諸尊の多くは唐・実叉難陀訳『華厳経』(八十巻本)に拠っていることなどが明らかに されているが、諸尊の具体的な図様典拠や本図のもつ教義的な意味など、不明な点も多く残 されている。本発表では、本図のイメージソースを特定し、その思想背景を考察する。また、 同時代絵画との比較検討により、本図の絵画史上での位置付けを明らかにしたい。
以上に加え、本図と表現の共通性が指摘されている「涅槃図」(高山寺蔵)と「釈迦誕生図」 (円通寺蔵)、相似の画面構成をとる「華厳海会善知識曼荼羅」(東大寺蔵)など、同時代の作品 にも言及し、それらを生み出した高山寺における造形活動の一端を明らかにしたいと考える。
森實久美子さん より